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最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ト)61号 決定

抗告人 浅井岩根

同 鈴木良明

同 竹内浩史

同 西野昭雄

同 福島啓氏

右五名代理人弁護士 井口浩治 佐久間信司 杉浦英樹 杉浦龍至 滝田誠一 橋本修三 山田秀樹 新海聡 小川淳

右抗告人 鈴木良明、同竹内浩史、同西野昭雄、同福島啓氏代理人弁護士 浅井岩根

右抗告人 浅井岩根、同竹内浩史、同西野昭雄、同福島啓氏代理人弁護士 鈴木良明

右抗告人浅井岩根、同鈴木良明、同西野昭雄、同福島啓氏代理人弁護士 竹内浩史

右抗告人浅井岩根、同鈴木良明、同竹内浩史、同福島啓氏代理人弁護士 西野昭雄

右抗告人浅井岩根、同鈴木良明、同竹内浩史、同西野昭雄代理人弁護士 福島啓氏

相手方(参加申立人) 西尾武喜

同 平岩利夫

同 奥田信之

右三名代理人弁護士 鈴木匡 大場民男 鈴木雅雄 深井靖博 堀口久

参加被申立人 名古屋競輪組合管理者 西尾武喜

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

抗告人らの抗告理由第一点について

行政事件訴訟法二三条一項(同項を準用する場合を含む。)の規定により行政庁を訴訟に参加させる決定に対して、即時抗告その他の不服申立てをすることは許されない(同法二二条三項参照)。このように解しても憲法三二条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(最高裁昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日判決・刑集二巻三号一七五頁、最高裁昭和四二年(し)第七八号同四四年一二月三日決定・刑集二三巻一二号一五二五頁)の趣旨に徴して明らかであり、論旨は理由がない。

その余の抗告理由について

所論は、違憲をいうが、その実質は原決定の単なる法令違背を主張するものにすぎず、民訴法四一九条ノ二所定の場合に当たらない。

よって、本件抗告はこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一)

抗告人らの抗告理由

第一点 原決定は裁判を受ける権利を定める憲法第三二条に違反している。

一 憲法第三二条違反

原決定は、行政事件訴訟法第二三条の規定に基づく参加決定に対しては独立して不服を申し立てることができないことを理由に、特別抗告人らの抗告を却下した。

しかし、本件参加決定は本案訴訟の結果に重大な影響を及ぼしかねない決定であるので、この参加決定に対して不服申立の権利を認めない原決定は、憲法第三二条に定める裁判を受ける権利を無視するものであって、憲法違反である。

二 原決定がなされた経緯

本件の本案訴訟は、名古屋競輪組合(一部事務組合)がその議員に対して違法な費用弁償をなした事件について、特別抗告人(原告)らが違法な費用弁償を行った名古屋競輪組合の職員(管理者が筆頭)及び費用弁償を受けた議員を共同被告として名古屋地方裁判所に提起した地方自治法第二四二条の二第一項第四号に基づく住民訴訟である。

そして本件参加決定は、同条第六項、行政事件訴訟法第四三条第三項及び第四一条第一項によって準用される同法第二三条第一項の規定に基づき、名古屋競輪組合の管理者を行政庁として被告らのため参加させたものである。

これに対し特別抗告人らが直ちに抗告を行ったところ、原決定により却下さることとなった。

三 補助参加の規定(即時抗告)の準用

原決定は抗告を認める規定がないことを理由に特別抗告人らの抗告を不適法として却下した。確かに行政事件訴訟法第二三条に基づく参加の許否の決定に対して不服申立を認める直接の規定は存在しない。

しかし、次に述べるように、本件の行政庁の参加は実質的には補助参加の性格を有しているのであるから、補助参加の許否の決定に対する即時抗告の規定(民事訴訟法第六六条第二項)が準用されてしかるべきである。

四 本件参加は実質的には補助参加である

1 行政事件訴訟法第二三条が「他の行政庁の参加」を認める趣旨は、行政庁を参加させることにより、その有する訴訟資料等を法廷に提出させることにより適正な審理裁判を実現することにある。

原決定が「同条の規定は、参加の拒否を裁判所の職権に委ねることを基調とし、当事者の申立ては裁判所の職権発動を求める意味のものとしているため、参加の許否の決定に対する不服申立ては認められていない」と判事したのも、同条を右のような趣旨として理解していることによると思われる。おそらく、その前提には、「他の行政庁」の参加についての許否の決定は、対立する訴訟当事者のいずれにかに利益・不利益を与える性質のものではないので、あえて不服申立の機会を与える必要がないとの考え方があるのであろう。

2 しかし、右のような考え方は、行政事件訴訟法二三条の予定する通常の取消訴訟の場合は妥当するとしても、住民訴訟、とりわけ地方公共団体の管理者が個人として訴えられている住民訴訟においては、その管理者が「他の行政庁」として参加することが問題となっているケースには妥当しない。

なぜなら、住民訴訟の被告としての地方公共団体の管理者と「他の行政庁」として当該地方公共団体の管理者はまさに同一人物であるので、「他の行政庁」としての地方公共団体の管理者に、自分自身に不利な訴訟資料等を法廷に提出することを期待することはできないからである。

本件で言えば、名古屋競輪組合の議員に対する費用弁償の違法を裏付ける資料が存在し、それを名古屋競輪組合の管理者が保有している場合、名古屋競輪組合の管理者がその資料を訴訟資料として裁判所に提出することは全く期待できないばかりか、その資料の存在さえ隠匿されることが十分に予想されるところである。

こうしてみると、行政事件訴訟法第二三条に定める行政庁の訴訟参加は、住民訴訟、とりわけ地方公共団体の管理者が個人として訴えられている住民訴訟の場合においては、「他の行政庁」の保有する訴訟資料等を法廷に提出させることにより適正な審理裁判を実現するための規定にとどまらず、訴訟の結果につき利害関係のある者を訴訟に参加させる補助参加の性質を有していると言わざるをえない。

実際、名古屋競輪組合の管理者は、平成五年一二月一四日付意見書において、「前記予算執行は、行政上の措置として誠に適法であると信じている。」、「本訴において前記予算執行が違法であると判断されれば、名古屋競輪組合としては、適法かつ妥当に支出し、もはや組合に帰属すべきでないと考える金員の返還を受けることを余儀なくされるものである。そのような事態が発生するならば、行政庁としては、この訴訟に重大な利害関係を有する。」と主張しているところである。

五 結語

従って、単純に不服申立の規定がないとして抗告を却下した原決定は、本件の訴訟参加が実質的には補助参加の性質を有しており、訴訟参加の可否が本案訴訟の帰趨を左右しかねない重大なものであることを看過したものであって、特別抗告人らから本件参加決定に対する抗告権を奪い、ひいては本案訴訟において適正・公平な裁判を受ける権利をも奪うものであるので、憲法第三二条に違反していると言わざるをえない。

第二点 本件参加決定自体が憲法三二条に違反している。

一 憲法第三二条は裁判を受ける権利を保障しており、民事・行政事件については原則として公開・対審の訴訟手続を保障するものである。

原決定は、「住民訴訟中いわゆる四号請求においては、普通地方公共団体は訴訟における実質上の当事者であり、権利帰属者であるから、これが訴訟の相手方である職員の側に参加することは、訴訟の対立構造に反するともいえなくはないが、行政庁は地方公共団体自体とは別個の存在であり、行政庁の行為等の適否に関して独自の立場から訴訟活動をさせることは可能であるから、行政庁を職員の側に参加させることが住民訴訟の基本的構造に反するとまではいえない。」として本件参加決定を容認している。

しかし、行政庁と地方公共団体が別個の存在であるというのは、実体に目を向けない形式的な論理である。行政庁が、当該行政庁の行為等の適否に関して独自の立場で訴訟活動をすることは事実上期待できないことである。

従って、行政庁を職員の側に参加させることは、訴訟の対審構造に反しており憲法違反である。

二 また、名古屋競輪組合の管理者が職員の側に参加することが認められれば、職員の利益にしか訴訟活動をしないことは明白であるので、名古屋競輪組合の管理者の保有する訴訟資料のうち、職員らに不利益なものが法廷に提出されないおそれが生じる。このような結果となる参加決定はそれ自体において特別抗告人らの適正な裁判を受ける権利を侵すものであって違憲であり、その参加決定を容認する原決定も違憲と言わざるをえない。

第三点 原決定は地方自治の本旨を定めた憲法第九二条に違反する。

一 地方自治法は、憲法第九二条に定める地方自治の本旨とりわけ住民自治を実現するべく住民訴訟の規定を設けたものである。そして住民訴訟は、住民の直接参政の手段であるとともに、地方公共の利益を擁護し、地方財務の管理・運営に対する司法統制を目的としている。最高裁昭和三八年二月一二日判決も住民訴訟を「住民の手によって地方自治運営の腐敗を防止矯正し、その公正を確保するために認められた住民の参政措置の一環をなす」ものと位置づけている。

二 ところで、第二点でも言及したように、住民訴訟のいわゆる四号請求において地方公共団体の管理者が「他の行政庁」として地方公共団体の職員の側に参加することを認めることは、住民訴訟の基本構造に反するものであり、地方自治法が地方自治の本旨の実現として設けた住民訴訟の制度をないがしろにするものである。

従って、本件参加決定を容認し、それに対する不服申立すら認めない原決定は、憲法第九二条に定める地方自治の本旨に反するものであり、違憲である。

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